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  • 三谷 宏治: マンガ経営戦略全史 革新篇

    三谷 宏治: マンガ経営戦略全史 革新篇
    同じ著者の漫画ではない方の『経営戦略全史』も読んだが、マンガ版のほうがヴィヴィッドで出来が良い(と言ったら著者に怒られそうだが)。少なくとも経営戦略の全史という硬いテーマが、血の通った活き活きとしたストーリーとしてすんなりと脳に入ってくる。「マンガ」のほうは「確立篇」と「革新篇」とに分冊化されており、どちらも読むべきだと思うが、「革新篇」のほうが新しい理論家が網羅されているのでより興味深い。

  • 三谷 宏治: 経営戦略全史 (ディスカヴァー・レボリューションズ)

    三谷 宏治: 経営戦略全史 (ディスカヴァー・レボリューションズ)
    こちらを先に読んでから「まんが版」をあとから読んだが、漫画版を先に読むことをお勧めする。ただし、こちらもいずれ読みたくなるだろう。

  • 大井 篤: 海上護衛戦 (角川文庫)

    大井 篤: 海上護衛戦 (角川文庫)
    シーレーン(海上輸送路)を絶たれたならば資源を持たない日本のような海洋国家に未来はない。だからシーレーン防衛は日本にとっての最も重要な課題である。その当たり前のことが戦前の指導者たちはわかっていなかった。もの凄い情報にあふれたこの本は日本国民必読の書であると言える。 (★★★★★)

  • 長沢 伸也・石川 雅一: 京友禅千總 450年のブランド・イノベーション

    長沢 伸也・石川 雅一: 京友禅千總 450年のブランド・イノベーション
    戦国時代より450年以上も継続する京友禅メーカー「千總:CHISO」の百年に一度の危機を何度も乗り越えてきたノンフィクション! (★★★★★)

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2017年11月24日 (金)

ジンバブエのクーデターの真実 現地に電話取材

ジンバブエで軍事クーデターが起き、ムガベ政権が転覆される事態となったが、筆者はジンバブエ市民とスカイプで通話(11月21日)して現状についてきいた。以下がそのインタビューである。 (英語での通話を以下邦訳。注:なお、このインタビュー時点では、93歳のムガベ大統領は大統領を辞めることをクーデター後においても拒絶していた。)

 

石川:ジンバブエでクーデターが起きたことが大ニュースになっているよね。国民はクーデターを起こした軍司令官を支持していると伝わっているけど、それは本当なのかい?君はどう思っているのかい?

 

市民M:国民は皆喜んでいるわ。これまであまりにも政府が腐敗して経済も酷い状態になっていたから、それを打開するチャンスとして受け止めているの。私は暴力には反対よ。でも今回のクーは武力で脅してはいるものの 流血無しにことが進んでいて、それで体制が変えられるならばハッピーに思うわ。

 

石川:軍は放送局を最初に占拠した。これはクーデターの常套手段だけれども、軍司令官は「この行動はクーデターではない」と言っているそうだね。私から見ると100%クーデターだけれども、なんで軍はクーデターではないと言い張っているのかい?

 

市民M:それはね、ジンバブエを囲む3つの国:モザンビークとザンビアと南アフリカが、「もしもジンバブエでクーデターが起きたならば、自国の軍をジンバブエに侵攻させる!」と言っていたからよ。ジンバブエの軍上層部は、モザンビーク軍やザンビア軍や南アフリカ軍がジンバブエ国内に攻め入ってくるのだけは避けたいのよ。だから、実際にはクーなんだけど、軍は真っ先に放送で、「これはクーデターではない」と断言せざるをえなかったのよ。

 

石川:そういう複雑な事情があったんだね。そこまで複雑な情勢を報道しているところはなかったので知らなかったよ。

 

市民M:本当、複雑怪奇な情勢よ。

 

石川:或る報道によれば、ジンバブエ軍の司令官が中国を訪問していて、その軍幹部がジンバブエに帰国して数日後にクーデターが起きたので、もしかしたらその司令官はクーデターを起こすことについて中国の事前了解を得ようとして訪中したのではないか? もしくは、クーデターの裏に中国のなんらかの影響があったのではないかという想像もありうると書いていたけど、それは本当なのかなあ? 君は中国の影響についてどう思う? 

  

市民M:それは事実だと思うわ。だってジンバブエに対する中国の影響力は今はものすごく大きいの。司令官が中国の了解を得ようとしたことは十分考えられることだし、中国がクーにGOサインを与えた可能性もあるでしょうね。

  

石川:なるほど、それで全体像がちょっと見えてきた感じがするな。ジンバブエを囲む三国、特に南アフリカやザンビアはコモンウェルス(英連邦)だから、ジンバブエの中国寄りの立場は阻む必要があるとされているのかもしれないね。

 

市民M:それもあるわね。それと、ジンバブエはきわめて貧しい国なの。だから貧しい国民は出来るだけ外の国に行って働きたがるのよ。今ジンバブエから200万人が周辺国に出稼ぎに行っているとも言われているわ。この労働力は周辺国にとってもありがたいことなの。ジンバブエからの労働力がジンバブエに帰国するような状況はどんな理由であれ、周辺三国の労働力不足につながるので、なんとしても避けたいのよ。

  

石川:ジンバブエでは、ひどいインフレーションで、BBCによれば年率インフレーション1000%という話も伝わっている。1000%といえば、その年の1月に1ドルだったものが翌年の1月には10ドルになるということだ。それは本当なのかい?

  

市民M:ジンバブエで起きているハイパーインフレーションは事実よ。たとえば、私には幼い息子がいてオムツを買わなければならないの。でもそのオムツは2ヶ月前に5ドルだったものが今は12ドルか13ドルくらいしているわ。

 

石川:なぜそんなハイパーインフレーションが起きたのかい、その原因はいったいなんだったのかい?

 

市民M:2000年以降くらいだったかしら。通貨として皆国民はUSドルを使っていたのを政府がジムダラー(ジンバブエドル)しか使えないように米ドルを回収して流通しないようにしていったの。そうして 今では米ドルが使えなくなったの。

 

石川:それで何が起きたのかい?

 

市民M:考えてみて。たとえば私がスーパーマーケットのオーナーだったと仮定するわね。

スーパーの商品を仕入れなければならないわ。でも、商品はほとんどが海外から来るものよ。でも問題はジムダラーが海外では通用しないということなの。だからジムダラーで商品を海外から買いたくても買えないのよ。

 

石川:つまり、ハイパーインフレーションは政府の誤った金融政策から起きたわけだね。

 

市民M:その通りよ。商品が輸入出来なくなったから在庫が払底して価格が高騰してしまったのよ。

 

石川:ファーストレディー(大統領夫人)も批判されているようだけれども、その点についてはどうなのかい?

 

市民M:国民が貧困にあえぐなか、大統領夫人は巨額の金額をかけて贅沢きわまる私邸を建てたり、政治に口を出して自分の好き嫌いで人事介入したりして、国民から反発をかったのよ。

 

+++++++++++++++++++++++++

 

 以上のインタビューの内容を要約すると、以下のようになる。


* ジンバブエはもともと最貧国のひとつであったが、流通していた米ドルを駆逐してジンバブエドルだけを使わせるという誤った通貨政策によって国内経済が過度に混乱して、ハイパーインフレーションを招くこととなった。そしてその経済混乱への民衆の怨嗟が体制転覆の原動力となった。


* ジンバブエ国軍が軍事クーデターを実行しながらも、占拠した放送局から出した声明で、「これはクーデターではない」と軍幹部が真っ先に発表した背景には、「もしもジンバブエで軍事クーデターが起きたときには国境を越えて軍事介入する(ジンバブエに軍を侵攻させる)」 と言っていた周辺三国:南アフリカとザンビアとモザンビークの動向をジンバブエ国軍が危惧していたという事実が存在する。


* ジンバブエ国軍司令官が中国訪問から帰国して数日後にクーデターが起きたという事実について、中国の思惑や影響があったのかどうかは判然とはしないものの、少なくともジンバブエ国民の一部はそのことを疑っている。

 

                 Copyright © 2017  Masakazu Ishikawa 石川雅一

 

 


20171124

地図出典: Free Political Maps of Africa

 

 




2016年9月 4日 (日)

東京芸大 神輿の恐るべき完成度 藝祭2016

 博物館と美術館が集中する上野の森に芸術の秋の始まりを告げる東京芸術大学の藝祭2016(今年の藝祭は9月2日から4日までの開催)。
今年も藝大神輿(みこし)の大賞作品は恐るべき完成度であった。
 
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なんと言っても、藝祭の最大の見物は巨大神輿である。
 
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今年の大賞受賞は、日本画・邦楽チームが制作した「花札」だった。
 
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花札の絵柄がそのまま飛び出てきたような造形美に、私も息をのんだ。
恐るべき完成度の高さである。
アイデア良し、造形も良し。大賞に選ばれて当然というべき素晴らしい作品だった。
 
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優れた作品はどの方向から観ても見所が満載で飽きさせない。
上の写真はこの花札を後ろから観た写真である。
花札があって、そこから絵が立体化して飛び出してきている意匠が見事である。
 
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こうした素晴らしい作品群はチーム一丸となって数週間前から制作に取り組んできたものである。下の写真は1週間前に撮った制作中の作品である。
 
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東京藝大の各科の1年生たち各科の混成団体が競ってこれらの巨大造形物を作り上げるが、
1年生でこれだけのものを創造できる東京藝大の底力には毎年のことながら感嘆させられる。
 
 
    Copyright © 2016  Masakazu Ishikawa

2015年9月 5日 (土)

藝祭2015 宮田学長が藝大生に檄を飛ばす

 

 上野の森に芸術の秋の始まりを告げる藝祭2015が始まった。上野公園での開幕式で、東京藝術大学の宮田亮平学長は、居並ぶ藝大生たちを前にして次のように力強く述べた。「おめーら、最高だぜ!日本の文化芸術を創るのは、お前たちだっ!」

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檄を飛ばした宮田亮平学長  (photo: Masakazu Ishikawa) 

 

 学長挨拶のあとで恒例の巨大神輿8チームの受賞作品発表があった。

中央通り賞・アメ仲賞・上中賞・上野六丁目賞・桜パンダ賞・明神賞・マケット賞・大賞・学長賞の9つの賞が発表されたが、中でも最高の賞とされる「大賞(上野商店街連合会賞)」の発表で「工芸・楽理」が叫ばれると、会場は大歓声に包まれた。

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大賞受賞の工芸・楽理 「オオサンショウウオ」  (photo: Masakazu Ishikawa) 

 

大賞のトロフィーを見て筆者は驚いた。こ、これは・・・侍(サムライ)の肖像ではあるが、その顔のメイクは、件(くだん)のデザインではないか!?なんと呼ぶべきか、ボツザムライか?これほど強烈なパロディがあろうか?これは、「お前たちはオリジナリティを追求せよ」とのメッセージなのだろうか。

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大賞のトロフィー授与式  (photo: Masakazu Ishikawa) 

 

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大賞のトロフィー (photo: Masakazu Ishikawa) 

 

 巨大神輿大賞以外の賞の受賞チーム作品は以下の通りであった。

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中央通り賞: 建築・声楽「大蛸と遺跡」  (photo: Masakazu Ishikawa) 

 

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アメ中賞:油画・指揮・打楽器・オルガン・チェンバロ「アストラル・モンスターズ」  (photo: Masakazu Ishikawa) 

 

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上中賞:先端芸術表現・音楽環境創造「恐竜卵」  (photo: Masakazu Ishikawa) 

 

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上野六丁目賞:デザイン・作曲「白猪」  (photo: Masakazu Ishikawa) 

 

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明神賞:彫刻・管楽器・ピアノ「金太郎と熊」  (photo: Masakazu Ishikawa) 

 

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マケット(maquette)賞:工芸・楽理「オオサンショウウオ」  (photo: Masakazu Ishikawa) 

 

 以上、藝祭初日の最大のイベントである巨大神輿コンテストを中心にお伝えした。藝祭は金曜から日曜(2015年9月4日~6日)までの三日間開催された。

(注: 各チームの神輿の名前は特に発表されておらず、上記記事の中の各神輿の名前は、制作チームへの聞き込みや外観の印象をもとに筆者の独断を交えて付けたものである。ご了承いただきたい。)

  

    Copyright © 2015  Masakazu Ishikawa

2015年6月28日 (日)

気学で予想した2015年 中間報告

 
今年2015年の1月に、2015年という年がどういう年になるかについて予想記事を或る業界紙に書いた。それから半年過ぎた今、「ものすごい当たっている!」、 「当たりすぎではないか?」という好反響をいただいている。そこで、私がその業界紙でここでどういう予想を立てたかについて、その文章を再掲させていただきたい。以下がその文章である。ちなみに私が予想予測の拠所(よりどころ)としたのは、気学、すなわち中国占星術である。私は中華星霜学会(台湾)日本支部の渡辺サク子師に師事して気学を学んできている。以下、業界紙の記事を再掲する。
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2015

気学で予想する! 2015はどんな年か?

  石川雅一

 「気学」は中国占星術の系統にあたり、「陰陽道(おんみょうどう)」や「風水(ふうすい)」とも密接な関係があります。気学では新年は節分のあとの24日から始まります。2015年は「乙(きのと)未(ひつじ)三碧(さんぺき)」の年です。乙(きのと)は、新しい時代の始まりを意味しますが、堅い殻を破って地中で発芽した状態で、周囲からの重い圧力に押されながら地上に出ようとしてもがいている状態です。芽は伸びつつありますが、まだ重い土の中に埋まっているので発芽したての芽が伸びようとしても土に押されてゆがんで曲がった状態です。乙という字はまさしくその曲がった状態の芽の形を象形文字としてあらわしたものであると解釈できます。新しい時代が始まってはいるものの、周囲の状況は重苦しくその新しい時代の始まりをたやすくは許してくれません。そういう新しいものへの抵抗が今年はあるでしょう。次に十二支の未(ひつじ)ですが、「未(ひつじ)」という漢字は皆さん「未来(みらい)」という漢字を書くときに必ず使っていますよね。未来は「いまだ来ていない将来」ですが、「芽が出たばかり」という意味で言えば、「いまだ枝葉が出てはいない」という意味なのです。

ちなみに十干と十二支で、1012の数字の組み合わせは最小公倍数で60という数字が出てきます。60年経つと一回りして戻ってくるから、六十歳で「還暦」(かんれき)と言うわけです。今年「乙(きのと)未(ひつじ)」は、60干支の中では32番目に当たります。前回の「乙(きのと)未(ひつじ)」の年、すなわち今から60年前の年がどんな年だったかを振り返ると、今年がどんな年になるかというヒントが与えられるかもしれません。前回の「乙(きのと)未(ひつじ)」の年、すなわち60年前の1955年(昭和30年)は、旧ソビエト連邦を中心とする軍事同盟「ワルシャワ条約機構」が結成され、米国とソ連との冷戦が激化していった年でした。これと似たような状況が今年も起きてくることが予想されます。今、東欧ではロシアがウクライナに侵攻して局地戦争が激化しています。つい先日、ウクライナ人と国際電話で話したときにウクライナ東部での戦いについて私が「内戦(civil war)」という言葉を使った途端、彼女は「内戦ではありません!ロシアによる明らかな侵攻(intrusion)です」と私の言葉を明確に訂正してきました。またアジアに眼を向けると、中国が未曾有の軍事力拡大を遂げつつあり、日本の尖閣諸島のみならず周辺各国や米国海軍との摩擦が異常なほどに高じてきています。中国首脳は米国政府に対して「広い太平洋を米中で半分に分け合おう!」と発言しましたし、米国海軍艦艇を東シナ海と南シナ海からいずれ追い出すとまで言い始めています。中国はフィリピン領海の南沙諸島の環礁に多くの中国艦船を派遣して浅瀬を埋め立てて中国の海軍基地をフィリピンの目と鼻の先に実質的に作ってしまいつつもあります。さらにまた中東に眼を転じると、テロリスト集団ISIL(イスラム国)の台頭が中東地域の安定を著しく乱しています。こうした世界的に広がる軍事的な不安要素が2015年にはさらにいっそう激化していくことが予想されます。60年前の1955年はまた、第二次世界大戦敗戦国の旧西ドイツで連邦軍が結成され、西ドイツの再軍備が始まった年でもありました。これは東西冷戦の激化から米軍が西ドイツに旧ソ連と旧東ドイツに対抗する先兵になることを促した結果だったと解釈できます。今年2015年は、中国人民解放軍の海洋進出に対して米国が日本の海上自衛隊の即時対応能力の向上をさらに強く要請してくることが予想できます。安倍政権はそれに対して憲法改正を踏まえて対応しようとするでしょうが、乙(きのと)の象意から、野党によるきわめて重い反発が予想されます。安倍首相は「乙」の字の如く、今年は身を曲げて耐えざるを得ないでしょう。

 次に「三碧(さんぺき)」を見ていきます。去年2014年は四緑(しろく)の年でした。四緑は風を意味するので強風台風に注意が必要と一年前にこのコラムで述べました。その通り、去年2014年には強風台風が実際に来ました。台風8号で「瞬間最大風速75メートル」という恐ろしい言葉がニュースに出たことを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。三碧の今年2015年は雷(かみなり)が多い年になると予想できます。落雷に起因する事故に最も注意が必要な年となります。三碧(さんぺき)には雷の象意があるからです。爆発という象意もありますので、上記で触れましたように怒りに満ちた地域紛争はもちろんのこと、その他、火山噴火や工場や家庭でのさまざまな爆発事故などにも注意が必要になると思われます。

 

石川雅一 プロフィール

元テレビ局国際報道ジャーナリスト。株式会社グレース専務取締役。中華星霜学会日本支部三密科会員。管理美容師。MBA(経営管理修士)。早稲田大学大学院商学研究科ティーチングアシスタント。

著書: 石川雅一『平清盛の盟友 西行の世界をたどる』(鳥影社2012年。)

石川雅一『京友禅千總450年のブランドイノベーション』(同友館2010年。)

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  Copyright © 2015  Masakazu Ishikawa

2015年6月 2日 (火)

カイオムの子会社リブテックとスイスADCセラピューティックスとの提携、並びに抗体薬物複合体について

 

 私は修士論文がバイオテクノロジー企業の経営に関する論文だったため、常々様々なバイオテクノロジー企業をウォッチしているが、標的療法であるADC(Antibody-Drug Conjugate:抗体薬物複合体)の動向で興味ある動きが昨今見られた。

  遺伝子組換えによる迅速な抗体作製技術「アドリブ(ADLib)システム」を中核技術とする上場企業カイオムの子会社リブテックで、癌治療用抗体 LIV-1205 について、スイスの会社ADCセラピューティックスとの提携オプションライセンス契約締結がカイオム社によって2015年5月26日に発表されたのである。カイオム社の株価は翌日ストップ高を付けた。

 今回の子会社リブテック社とスイスADCセラピューティックス社との提携で、「ADC」こと、Antibody-Drug Conjugatesが、いったいどの程度の市場規模を持ちつつあるのかを調べてみた。

「抗体薬物複合体(ADC)の世界市場2015:パイプライン分析、技術動向、競争状況」 というグローバル市場調査レポートが今年3月に発売されていることを知った。このグローバル市場調査レポートの価格は、個人が買えば、342ページ1部で43万円(USD3,500 )、企業ならば1部130万円の価格である。このようなレポートの価格としては通常の価格帯なのかもしれない。とりあえず無料の拾い読み「英文サマライズ」に目を通すと少なくとも以下のことが書いてある。(和文拙訳。)

 

Antibody-Drug Conjugates (ADCs) are monoclonal antibodies (mAbs) attached to biologically active drugs by chemical linkers with labile bonds. The ongoing research on this therapy will replace the chemotherapeutics treatments in the near future thereby reducing its toxic side effects. Billions of dollars are spent on the chemotherapy treatments annually.

 

 ADCこと、抗体薬物複合体は、化学的変動結合で活性を有する医薬品に結合するモノクローナル抗体である。この目下研究中のADCは、近い将来、毎年何千億円という規模で使用されている化合物医薬品に取って代わると見られる。

 

Different Biotechnology companies and Pharma Companies are collaborating in all area of ADCs like linker technology, antibody production and conjugation process. Seattle Genetics’s Brentuximab vedotin and Roche’s trastuzumab emtansine are the only ADCs approved which have together made USD 523 millions sales in 2013. There are total 264 ADCs in pipeline with 253 ADCS are developing only for Oncology indications.

 

 さまざまなバイオテクノロジー企業や製薬会社がADCこと、抗体薬物複合体について共同して研究開発を行っており、それらは、リンカー・テクノロジー、抗体産生、複合体(conjugation)プロセスなどについての研究である。シアトルジェネティクス社のブレンツキシマブ・ベドチンや、ロシュ社のトラスツズマブ・エマタンシンは、数少ない承認されたADC(抗体薬物複合体)であるが、このふたつの医薬品で2013年に5億2300億ドル(米ドル)(1$120円として約630億円)を稼ぎ出した。264ものADC(抗体薬物複合体)が現在パイプラインとして開発中であり、そのうちの253が癌(ガン)の適応に関する研究開発である。

 

  また、”JOURNAL OF ANTIBODY DRUG CONJUGATE”というADCの専門誌によれば、ADCは、そもそも、お馴染みのYの字型をしたモノクローナル抗体(Monoclonal Antibody)と、癌細胞(Cancer cell)を殺すための毒(cytotoxic agent or toxin)と、その毒を抗体にくっつけるためのリンカー(linker)とで構成される。ADC(抗体薬物複合体)は、そもそもターゲット・セラピー(標的療法)のひとつとして発展してきた経緯があり、癌のような特定の病変部のみに正確に作用してそこだけを叩くという、わかりやすくするために喩え方が卑近であることを懼れずに敢えて言えば、兵器にたとえればスマート爆弾のようなきわめて正確きわまりない作用機序が期待される。したがって、化合物医薬品と比べて副作用は小さく、作用効果はとても大きいという新薬が続々と誕生していくことが、今後の各社のADCの研究開発、それぞれのパイプラインに今後ますます期待されていくことであろう。

 

 

 

 (本稿はバイオテクノロジー産業の現況と動向についての私論を述べたものであり、特定の株式や金融商品等の取得・勧誘を目的とするものでは一切ありません。)

 

  Copyright © 2015  Masakazu Ishikawa

2014年9月 5日 (金)

藝祭 2014 迫力あふれる巨大神輿たちの造形美

 上野の森に芸術の秋の始まりを告げる恒例の「藝祭(げいさい)」が9月5日から始まった。

「藝祭(芸祭)」とは、東京藝術大学の学園祭のことである。今年の藝祭の期間は、9月5日(金曜)から7日(日曜)までの三日間であった。藝祭の名物は、各科の1年生たち各科の混成8団体が競って造り上げた神輿(みこし)である。

 

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手前が日本画・邦楽の「白虎」、奥は彫刻・管楽器・ピアノの「九尾(きゅうび)の狐」    Masakazu Ishikawa 

 

 藝祭神輿の大賞は上野商店街連合会による投票で選ばれるが、2014年は、日本画と邦楽が制作した「白虎重来捕縛之図」であった。日本画・邦楽チームは、去年も「ナマズを摑む難義鳥(なんぎちょう)」が大賞を受賞したので二年連像の大賞受賞という快挙となった。ちなみに、今年の「虎捕縛」のモチーフは一休さんの問答からヒントを得たものだという。私が「なぜ白虎が波の中から現れているのか」と訊いたところ、青く渦巻いているのは波ではなくて実は雲なのだと言われた。ともあれ、虎の白色と渦巻く雲の青色との色のコントラストはとても綺麗だった。

 

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大賞受賞に喜び胴上げをしあう日本画・邦楽チーム      Masakazu Ishikawa  

 

 彫刻・管楽器・ピアノの「花魁(おいらん)と九尾の狐」は「六丁目賞」を受賞した。花魁の人体造形はおそらく最も造形的に制作難度が高いように私には思われ、その点はさすが彫刻科がかかわる作品であると感じられた。

 

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彫刻・管楽器・ピアノの「花魁と九尾の狐」     Masakazu Ishikawa 

 

 デザイン・作曲の「おどけ獺(かわうそ)」は、中央通り商店会賞とさくらパンダ賞とマケット賞の三つの賞を受賞した。

 

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デザイン・作曲の「おどけかわうそ」    Masakazu Ishikawa 

 

 建築・声楽の妖怪大集合は「アメ仲賞」を受賞した。

 

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建築・声楽の神輿    Masakazu Ishikawa 

 

 通りを挟む通称「美校(びこう)」と「音校(おんこう)」のキャンパスの中にはそれぞれ様々な屋台が出店しており、ビールやカクテルを飲みながら音楽やオペラなどを聴くこともできる。音校ではオペラなどが聴けるMANTO VINO(マントヴィーノ) と LA VOCE(ラ ヴォーチェ)、美校ではスタイリッシュなISSYUUが私の好みであった。ちなみにISSYUUは「一蹴(いっしゅう」のことで藝大サッカー部が運営する店である。

 

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ISSYUUで顧客対応をする杉江代表(左・黒シャツの男性)    Masakazu Ishikawa

 

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スタイルにあふれた、ISSYUUの店内     Masakazu Ishikawa

 

 手作りの作曲家シールを売っている店があったので、私はBACH(バッハ)のシールを買い求めた。

 

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作曲家52人のシール 1枚200円    Masakazu Ishikawa

 

 私の考えでは東京で一番強いパワースポットは上野の山の上だと思っているが、そのパワースポットの中心が藝大から東京国立博物館にかけての地帯だと思っている。その藝大が最も熱いパワーを放散する時がこの藝祭であることはまずまちがいないだろう。

 

    Copyright © 2014  Masakazu Ishikawa

2014年8月29日 (金)

国立西洋美術館「指輪展: 橋本コレクション」

 これは、国立西洋美術館としては珍しい、というか、どの美術館で開かれたとしても「珍しい」と言えるような展覧会かもしれない。すなわち、「指輪展」”RINGS”である。そう、この展覧会の展示物のほとんどは、あの宝石や貴石の指輪リングなのである。さらに驚くことには、今回展示された数百点の指輪は全てが国立西洋美術館の所蔵品なのだという。

 

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     Copyright © 2014  Masakazu Ishikawa 
  
 コレクターの橋本貫志氏(1924~)は東洋美術の蒐集家で80年代末以降は指輪を精力的にコレクトしてなんと指輪などの装飾品870点のコレクションを蓄積し、2年前(2012年)に国立西洋美術館にその宝飾品コレクション全点を寄贈したのだという。きわめて珍しいこの貴重なる展覧会はこうして日の目を見たのである。
 コレクションは本当に感嘆の一語に尽きる。古代エジプトから中世、近現代に至るまでそのすべてを網羅している。こういうコレクションを集められる見識学識と鑑定力の高みにはただただ舌を巻くのみである。しかもその蒐集の前提となる資金力。対象はなんと言っても宝石なのだ。考え得る限りの最低ラインで一個あたり10万円として計算して1億円近くになるが、実際にはオークションで一個あたり数千万円からひょっとすると1億円を超えるようなものもありそうなことを考えてそこで私は計算するのをやめた。しかもそれだけの高額かつ完璧なコレクションを築き上げたうえで、それを公的美術館にポンと寄贈するという態度が、私にはもしかしたらどんな宝石よりも美しいのではないかとも感じられた。
 
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     Copyright © 2014  Masakazu Ishikawa 
 
 上のパンフレットに大きく中心に載せられたリングは、展示77番のジョルジュ・フーケ(1862-1957)の「真珠とエナメルの花」である。これは確かにパンフレットの中心になるだけの魅力的な作品ではある。
 本展覧会では宝石や貴石の他に金属製やガラス製のリングも多く展示されている。展示87番のルネ・ラリック(1960-1945)の「ガラスの指輪」は文字通りガラスで出来ているのだろうが、貴石や宝石にも劣らない存在感と輝きに驚かされた。これこそデザインの勝利なのだろう。
 本展覧会には紀元前十数世紀の古代エジプトの「スカラベ」(昆虫のフンコロガシ)のモチーフが多く登場する。大きな丸い糞を転がして運ぶ昆虫のフンコロガシは、まるで太陽を運行しているかのようだと感じられて、古代エジプトでは「太陽神の化身」と考えられ崇拝されたのだという。丸にTの字を描いたような昆虫の背中の簡素化したデザインが宝石・貴石に刻まれている。私が驚いたのは、この古代エジプトの「スカラベ」のデザインとコンセプトがその後遙か後世にいたっても再現されていることであった。展示78番のジョルジュ・フーケ(1862-1957)の「スカラベ」は1900年頃の作品とされているが、まさにこういったデザインの普遍性と継承・継続性ということを私たちに問いかけているように思われる。
 
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     Copyright © 2014  Masakazu Ishikawa 
 
展示116番の「古代ローマ人の横顔を表された印章指輪」(16世紀、イギリス)は、最初見たときに、古代ローマ時代にローマで作られた作品かと思い込んだ。そこに刻まれた横顔肖像は男の自分から見ても本当に美男子で、もし女性が拡大鏡でこれを見たら恋に落ちる人がいるのではなかろうかと危惧したほどだった。古代ローマではなくて実は16世紀イギリスの作品であったが、古代ローマが一時征服した英国の地にはやはりローマの血と文化が底流にあったからこそ、こういう作品が作れたのではなかろうかと感じ入ったのであった。
 展示117番の「フルール・ド・リスが彫刻されたダイヤの指輪」にも心惹かれた。フルール・ド・リス(Fleur-de-Lis)はユリの花(もしくはアヤメの花)の紋章で深い歴史と意味を持ち、私が大好きな西洋の紋章であるが、それについて触れると夜が明けるのでここではあえて触れない。この指輪のデザインは本当に美しいが、そのデザインの背景を鑑みて見るとさらに深い輝きを放っている。
 私が今回の展覧会で最も美しくも素晴らしいと感じたのはどの指輪だったかと訊かれたら、私は迷わずひとつの指輪を挙げる。それは展示154番の「キリストの横顔」である。16世紀後期から17世紀にかけておそらくヴェネツィアの作品とされているリングである。これは向かって見て右を向いたキリストの顔を刻んだ緑色の宝石か貴石かガラスかは記されていないのでわからなかったが、いずれにせよ、その色と形と裏側から透過する光の神秘さとで私の心を捕らえて放さなかった。もうこの段階では、その素材はどうでもよくなり、そこに刻まれた信仰心の深さこそがそのリングの価値なのだと感じさせられた。
 展示306番の「ココの指輪」は1990年代、ココ(ガブリエル)・シャネルが愛した"Bagues Coco"(ココの指輪)の一方なのだという。大きさもデザインも堂々たるもので、一歩間違えば下品になりかねないような大きさと意匠の大胆さなのだが、きわめて気品が感じられるところがさすがはココ・シャネルの魔法であるように思われた。
 カメラ好きの私がとりわけ心惹かれたは、展示321番の「カメラが隠された指輪」(1950年頃、ロシア)だった。
1950年代にロシアスパイが使っていた指輪カメラで、フィルムは4ミリ四方のネガ8枚がその指輪の中に内蔵されて撮影可能とのことだったが、指輪の外側側面にはシャッターと思われる直径2ミリほどだろうか?のボタンと、フィルムワインダーと思われる突起と溝が展示品の下側に確認できた。金無垢もしくはゴールドプレートの指輪で宝石部分がレンズらしいのだが、いったいこの指輪カメラのレンズの明るさはF幾つで、最小焦点距離は何ミリで、現像時にどのくらいの解像度を持っていたのかが気に掛かってしょうがなかった。さらに面白かったのは、こうした指輪カメラが出来るような超小型化の技術が進展したきっかけが禁煙運動だったということだ。すなわち、従来はスパイカメラはたばこの箱とかライターといったガジェットにカメラを仕込んだスパイカメラが多かったものの、禁煙運動でたばこの箱やライターの出番が少なくなると、いきおいもっと小型化せざるを得ない状況に追い込まれていったというのである。
 
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     Copyright © 2014  Masakazu Ishikawa 
 
 今回の宝石展はほんとうに素晴らしい展覧会で、見ているさなかに私は感動で身震いさえ覚えかねない時があったが、さすがに指輪は展示品としては美術品のたぐいの中でも最小の部類に入ると思われ、単眼鏡(モノキュラー)が無ければ鑑賞にきついかもしれない。もちろん会場にはいくつかの作品にはルーペが固定されていて幾分かは拡大して見ることができるのだが、やはり自分でモノキュラーを持っていた方が良い。私がいつも美術鑑賞で携帯し、今回も持って行ったのは、Vixen 多機能単眼鏡 マルチモノキュラー 4X12である。
 
Vixen
     Copyright © 2014  Masakazu Ishikawa 
 
 この商品は最短合焦距離が20センチときわめて短距離なのがすばらしいのである。
これは倍率4倍モデルであり、この4倍モデルか、同じくビクセンの6倍モデルかで迷ったのだが、最短合焦距離の短さが6倍モデルのほうは25センチであり5センチ違う。この5センチというのはわずかな違いのように一見思えるが、実際に使ってみるとこの5センチというのはきわめて大きい違いなのである。よってこちらの4倍モデルの方を買ったのだが、実際に使ってみるとやはり実に正解だったと感じることがよくある。レンズの明るさが明るいというのも、博物館の中は美術品保護のためにわざと薄暗くしてあるので、ありがたいのである。また接眼部から目を15ミリ離したところからでもほとんど視野が見渡せる「ハイアイポイント」設計とメーカーが言っているので、めがねをかけたまま使うこともおそらく問題ないのではないかと想像する。
 私は美術館に行くのに、本品を手放したことはないが、今回の国立西洋美術館「指輪展: 橋本コレクション」ほど、このビクセン4倍モデルをありがたく感じたことはかつてなかった。
 

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2014年8月12日 (火)

幻の名著復刊! 『海上護衛戦』

 昭和28年に出版されて大反響を呼び、途中復刊もあったものの、その後絶版になって久しかった幻の名著『海上護衛戦』が今年(2014年)5月に新版となって角川文庫から発売された。(税別800円)

 
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                 Copyright © 2014  Masakazu Ishikawa 
 
 資源を国内にほとんど持たない日本や英国などは海上交通路(シーレーン: sea lane)の安全を確保せずして国家の維持運営はありえない。第1次大戦においても第2次大戦においても対英戦でドイツは潜水艦で通商破壊戦を展開して、英国はそれぞれの大戦においてほとんど窒息されかかった。しかし英国はオペレーションズ・リサーチ(operations research)で商船団の効果的な防御法と対潜水艦攻撃法を編み出してそれに全力を注ぐことで海上護衛戦に危ういところで勝ち抜いたのであった。一方、太平洋において潜水艦による商船攻撃、すなわち通商破壊をシステマチックに展開したのは米国であった。米国は大西洋におけるドイツの戦略「潜水艦による通商破壊戦略」を真似たのである。しかるに日本は対潜水艦攻撃や潜水艦からの商船団の保護にまったくと言って良いほど力を注がなかったのである。その詳細がこの本には語られている。本書によれば、開戦時に日本が保有していた商船団の総トン数は630万トン。しかしながら昭和16年12月の開戦から昭和20年8月の終戦までに米国潜水艦によって撃沈された日本の商船は合計1150隻、総トン数で485万トンという信じがたい被害に上っている。(この数字には、米国潜水艦によって撃沈された日本海軍軍艦艇のトン数は含まれてはいない。あくまでも商船だけの総トン数でその膨大な数量なのだ!)日本は軍事的にも経済的にも米国潜水艦によって文字通り窒息させられたのである。
 
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        写真撮影 Copyright © 2014  Masakazu Ishikawa
  
  著者:大井篤氏(1902~1994)は海軍兵学校卒業後に1930年から数年間米国バージニア大学、ノースウェスタン大学に留学し、上海事変勃発と共に駐米大使館海軍武官となり、中国沿岸警備艦隊参謀などを経て1943年から終戦まで海上護衛総司令部参謀を務めた旧帝国海軍のエリートである。しかし海上護衛総司令部こそが当時の日本において日本の人的物的資源を集中的に注ぎ込まなければならなかった筈なのに国家戦略的にそれがないがしろとされていた苦しみが本書からは痛いほどに読み取れる。
 太平洋戦争を振り返る戦史には戦艦大和とか零戦とかがとかく中心に語られがちだが、太平洋の勝敗の帰趨の真実は日本商船団の護衛戦とその壊滅にこそあったのだということが本書を読むとよく分かる。 
 
 
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          写真撮影 Copyright © 2014  Masakazu Ishikawa
 
 Amazonで取り寄せたこの文庫本の帯には、「艦これ」のイラストがあって、かなりの違和感を覚える方もいるかもしれない。実は私もそのひとりである。私は「艦これ」を否定する気持ちや意図は私の心の中に微塵も無いし、それはそれで良いと思っている。ただ、優れたプロモーション(販促)とは商品の内容を消費者に正確に伝えることであると私は信じているから言うのである。こういうイラストによって本の中身の方向性を誤解してしまって本書を手に取るのをやめてしまう人が万一いるとすれば、残念なことに違いない。とは言え、どんな契機であれ、本書のような名著が若い方々に読み継がれるべきだと私は思ってもいる。シーレーン防衛は単なる過去の問題ではなく、中国がその海軍の大幅な拡張政策によって海洋版図と海底資源への野心をあからさまにし始めた今、海洋国家日本の現在、そして日本の将来の切実な問題でこそあるからである。本書は海に開けた日本という島嶼国の国民にとって必読の書と言えるのではなかろうか。
 
 

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艦内神社に見る、「信仰と国家あるいは宗教と政治」

文学青年だった叔父が大洗で不慮の水死を遂げていることもあってか、

(「三島由紀夫が推奨した二作品」 http://poet.air-nifty.com/blog/2013/08/post-7119.html )

私はなぜか大洗という地に心惹かれ訪れることが多かった。叔父を慕って波打ち際に花束を流したりするうちに、大洗に、その名も地元で「おおあらいさま」と呼ばれる立派な神社があることを知ってやがてその社をたびたび訪れるようになった。神社の正式名称は「大洗磯前神社(おおあらいいそざきじんじゃ)」である。
 
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 社殿でお祓いを拝受したこともあったので、「大洗さま」という神社社報が時々送られてきていたが、今年(2014年)6月発行社報の表紙にあった護衛艦の写真を見て、磯前神社の神を奉祭する護衛艦があることを初めて知った。その社報記事は、磯前神社の分霊を奉斎してきた護衛艦「いそゆき」(はつゆき型護衛艦の六番艦)が29年間の職務を終えて除籍退艦となり、長崎県佐世保基地において青木艦長以下乗組員参列のもと昇神祭が斎行されたという記事であった。

 

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 私は取材で自衛隊のイージス艦の航行に同乗したこともあって、艦内に小さな神棚が祀られていることは知ってはいたが、それぞれの艦船が個別の神社の神を奉祭しているということまでは知らなかったのである。

 旧帝国海軍や海上自衛隊が艦内で祀ってきた神社についてまとめた希有な本が先般刊行された。その名も「帝国海軍と艦内神社 ・・・神々にまもられた日本の海」というタイトルである。著者は京都大学卒の久野潤(くの じゅん)氏で、内容は自分の脚でインタビュー調査を積み上げた実に地道な本である。艦内神社についてまとめた本としては初めての本だという。

 本書は護衛艦「ありあけ」の宗教行事が新聞メディアに問題とされた2002年の出来事から書き始めている。長野県南安曇郡穂高町の有明山(ありあけやま)神社で、2002年3月に就役予定の海上自衛隊の新護衛艦「ありあけ」の菅原艦長を招き、神社が祭る神の霊を同艦に分け与えるという「御分霊(みたまわけ)」の神事が行われたことに対して、政教分離の原則に抵触するのではないかという批判が出たのである。すなわち憲法20条「信教の自由」と憲法89条「公金は宗教組織に供してはならない」の問題である。

 政教分離の問題については、私もかつてインドで取材をしたことがある(secularism)。 ヒンズー教やイスラム教やキリスト教やシーク教やパルシーなど多数の宗教が鮮烈に分かれているインドでは日本など問題にならないくらいに政教分離の問題は先鋭的に社会に反映されるのである。

 しかしながら、日本は世界のなかでも例を見ないほどに最も政教分離原則が厳しい社会とされている。ものには程度というものがあるのである。たとえば米国などは大統領就任式を見ても聖書に手を置いて宣誓するのが決まりとなっていて、宗教と政治とは切り離すことができないのである。英国でも国教を定めている。政教分離とは、自分たちの伝統的な信仰を重視しながらも、他の信仰や宗教に対しても政治的に寛容であるということが世界的な主立った共通認識なのである。こうした世界観のなかで日本のしきたりも見る必要があるように私には思える。

 日本が政教分離原則で世界で最も厳しい国になったのは敗戦直後から敗戦国として強いられてきた慣行であるということが事実としてある。占領軍は日本の優れた航空機製作技術を封殺するために航空機産業の継続育成さえ許さない時期が戦後長く続いたが、そうした占領政策は文化面にも強く及んでいた。私は剣道初段であるが、剣道というスポーツもGHQは軍国主義的だとして一時禁止したのであった。 護衛艦「ありあけ」の例で言えば、1935(昭和10)年に旧帝国海軍の駆逐艦「有明」が就役した際に、ゆかりの名として神社の祭神を艦に分霊したことがあるという。護衛艦の艦内神社はこうした旧帝国海軍艦船の艦内神社の伝統を継いだものである。旧軍がやったことをGHQはすべて否定して日本から軍隊色を消滅させようとしたものの、東西冷戦のなかで朝鮮戦争が起きると、日本の再軍備が必要だと米国は手のひらを返した。日本はこういう政治情勢の中で左に揺れ右に揺れ、本来の日本人の伝統的な心のあり方をとかく忘れがちだったのではないだろうか。親を殺し子を殺し友人を殺すような荒んだ心と、不法薬物に逃亡するような病んだ心は、いったいいつどこから日本人の精神構造に入り込み蝕むようになってきたのだろうか。かつて日本人は八百万(やおよろず)の神や万物を崇拝し、親を敬い、日々感謝の心で生きる民族ではなかったのではあるまいか。

 「帝国海軍と艦内神社 ・・・神々にまもられた日本の海」では、旧帝国海軍の艦船で祀られてきた神社が数多く網羅されている。戦艦大和(やまと)に奉斎された神社は奈良県天理市の大和(おおやまと)神社だという。また、軍艦だけではなく民間船舶も船内神社を祀っていたとされ、たとえば貨客船氷川丸(ひかわまる)には、氷川神社の紋章が船内に意匠されているのだという。

  「帝国海軍と艦内神社」は興味深くもきわめて面白い本である。忘れかけていた何かを見いだすことがきっとあるのではなかろうか。

 

 

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2014年6月21日 (土)

国際的懸案となった都議会ヤジは犯人特定処罰が不可避

 「産めないのか」、「早く結婚した方がいい」、「自分が産めよ」というヤジが飛ばされたと報道されている東京都議会での「セクハラ・ヤジ」事件は、国内的に大きな批判を呼んでいるが、欧米メディアが海外でも報道するにいたって国際的にもさらに大きく波紋を広げている。被害者の塩村文夏(しおむらあやか)都議は自席に戻って涙を拭う姿がメディアで流されたが、その姿は心的ショックの大きさを想像するにあまりあった。この「セクハラやじ」事件は、米国CNNが6月20日に報道した。 

 

Outrage follows sexist outburst at Tokyo assembly meeting

By Will Ripley and Edmund S. Henry, CNN

June 20, 2014 -- Updated 1435 GMT

 

また、the guardian 英国ガーディアン紙も同日(6月20日)報道した。

Tokyo assemblywoman subjected to sexist abuse from other members

Incident widely criticised after sexist heckling by unidentified assemblymen thought to be from Liberal Democratic party

Justin McCurry in Tokyo theguardian.com,

Friday 20 June 2014 11.21 BST

 

 CNNもガーディアン紙も”sexist”(セクシスト)という言葉を見出しに使っている。CNNは"sexist outburst"、ガーディアンは”sexist abuse”、である。sexist:「セクシスト」とは、英語圏で最も権威ある英語大辞典のひとつであるWebster's Unabridged Dictionaryによれば、pertaining to, involving, or fostering sexism: a sexist remark; sexist advertising. とあり、すなわち、セクシズムにつかりきった人間のことである。そしてそのsexism:「セクシズム」とは、同辞典によれば、

1. attitudes or behavior based on traditional stereotypes of sexual roles.

2. discrimination or devaluation based on a person's sex, as in restricted job opportunities; esp., such discrimination directed against women. とある。

 すなわち、sexistとは、性差別主義者のことであり、racist:レイシスト(人種差別主義者)と並んで、近代文明社会においては最も忌避されるべきタイプの人間であって、欧米においてはこのことひとつだけで重責を担う人間や政治家としては失格とされており、このことだけで社会的重職や政界から追放されるべき人間だとされる。たとえば、先月米国NBA(プロバスケットボール協会)のロサンゼルス・クリッパーズのオーナー:ドナルド・スターリング氏が人種差別発言を行ったとしてNBAからの永久追放処分と罰金250万ドル(2億6000万円)を科された(毎日)ことがこうした差別発言事例に対する欧米社会の峻厳さをよく物語っている。

 今回の都議会での差別的ヤジがたとえ海外で報道されなかったとしても同事件に対する冷厳な姿勢は貫かれるべきだと筆者は思うが、現実問題として、これだけ欧米の一流メディアが同事件を海外でも報道するにいたった今となっては、単なる都議会レベルにとどまらず、さらに国政レベルにおいても同事件に対する峻厳たる態度と姿勢が厳にかつ喫緊に求められるに至っていると考える。

 塩村氏がヤジが聞こえた方向を示唆していることから最大会派である自民党都議が各メディアから疑いを受けている。それにもかからわず、「自民は発言者特定せぬ意向」だと19日に報道された。(朝日)

 これは自民党が本事件をあまりに軽く見ていることの表れともみえる。筆者は本事件は自民党の対応次第では次の(いつになるかはわからないが)都議選で自民の勢力を激減する要素になりうると見ている。なぜならば、「子育てと働く女性を支える」としてきた自民党の綱領がまったくの表看板に過ぎないウソだったと都民国民は本事件を通じて認識しかねないからである。

 一方、自民党の石破茂幹事長が「今の時点で自民党議員と決まったわけではない。特定して言っているわけではない」とはしながらも、「やじ発言者は名乗り出ろ」と報道された(産経)ことは、まことに正当かつ好ましい発言であると筆者は感じた。犯人説で最も疑われている自民党をはじめ、各党による犯人の特定と厳罰を切に願いたい。

また、やじを言った都議はこれだけ非難が国際的に大きくなっている今となっては、名乗り出ずに黙っていることは、交通事故におけるひき逃げ犯にたとえられてもしかたがないような壮絶かつ激烈な状況にいたっているということをしっかりと理解するべき時にきている。塩村都議の属する会派「みんな」では、既に声紋分析でヤジ発言者を特定する方向へ踏み出したと報道されている。(読売)

 たとえ自民都議たちが「聞こえなかった」と言っていると報道されていても(テレ朝)、声紋分析をすればやがてヤジ発言者は特定されるだろう。その前にヤジ発言者は自ら名乗り出るべきである。自らの発言を隠してこそこそと逃げ回ることだけで既に政治家としての資質と資格は無い。

 また、あれだけ鮮明に大きなサウンドでメディアに録音されたヤジに対して、一概に「聞こえなかった」 として犯人を名指しすることを避けることは、「犯人隠匿」に相当するかもしれないと都民国民から非難されるリスクがあるということを、すべての会派とすべての都議は重く考慮すべきでもある。

 

     Copyright © 2014  Masakazu Ishikawa

«津波にライフジャケット(救命胴衣)の備えを考えるべきではないか