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2012年4月29日 (日)

BIO tech 2012 「再生医療イノベーション」を聴講して

 

 4月25日から三日間にわたり、国際展示場ビッグサイトで開催されていた、”Biotech 2012”「再生医療イノベーション」に行った。そして、再生医療に関するとても興味深い講座を聴講した。

 

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  国際バイオテクノロジー展 2012     Masakazu Ishikawa

 

  それは、世界的に画期的な細胞シートの創始者である岡野光夫(おかの てるお)先生の司会で、ふたつの再生医療の講義発表がなされた。すなわち、それは以下の二つである。

 ひとつめは、クイーンズランド工科大学のDietmar W. Hutmacher:フットマッハー博士 (フットマッカーという発音でも呼ばれたが、私は、ご本人との名刺交換の時に、正しい発音について訊いた。そして、「フットマッハー」が正しいのだと、ご本人から言われた。) の骨細胞(Osteogenic cells)移植分野における進展する研究についてのものだった。

 ふたつめは、大阪大学大学院医学部心臓血管外科の澤 芳樹先生のTissue Engineering(再生医療)についての発表であった。

 

◆ ① ディートマー・フットマッハー先生: 骨細胞移植

 フットマッハー博士の講演では、骨細胞を散布注入するスキャッフォルド(scaffold)の分解を、組織が十分に再生してからにする必要があるとの見解が出された。博士はドレスデンで研究を続けているが、一般的にはチタンメッシュを使うところ、カスタムメイドの立体的なスキャッフォルドをCTを基にして作っているとのことだった。

 フットマッハー氏は、また、いわゆる「死の谷」("The Valley of Death") の問題にも触れた。基礎研究のあとに潜む死の谷で、第二・第三相へと進むのが困難な状況を指した言葉である。そこでその問題を超えるべく、VC(ベンチャーキャピタル)が作られるようになったのだと博士は述べた。

 科学技術研究への文化的な側面の影響という問題で、「実験動物の選択」についての話は、特に興味深かった。臨床試験前の動物実験においては、人間に近い動物を選択する必要がある。そこで、当初は犬(Dog)を使ってきた。しかし、犬は、人間にとって「コンパニオン・アニマル(Companion Animal)」であることから、多くの批判と倫理性の問題が生じるに至った。そこで、ヒツジ(Sheep)が選択されるにいたったのだという。結局、ヒツジは食用であるが、犬は(ごく一部の国を除いては、)食用ではありえない。多くの人々にとって犬は家族同様の存在であり、そうしたコンパニオンを動物実験に使うことは倫理上の問題につながっていくのである。この問題に、私は、クジラをめぐる東西の対立を思い出した。一定の理念や宗教観によって、或る動物を食用としない特定の地域や人々にとっては、そうした動物は、尊重すべき仲間であったり、崇(あが)める存在でさえあるのだ。インドにおける牛がその例である。

 話がそれてしまったが、フットマッハー氏の研究所では、ヒツジの飼育施設が併設されており、一度に120匹のヒツジを飼育することができるのだという。

 博士の研究では、PCL(polycaprolactone:生体吸収性ポリエステル)based scaffold(ポリカプロラクトンで作った構造体)を使用しているとのことである。こうしたスキャッフォルドに、ペースト状になった増殖因子をopen:オープンなアーキテクチャー、すなわち構造体の穴の中に入れる。こうして、細胞が構造体の中で育って形のある骨となっていくということである。骨細胞が育っていくにつれ、その足場(scaffold)は次第に生体に吸収され、骨細胞に置き換わっていく。

 博士は、スキャッフォルドのフロントサイドとバックサイドに、2mm程度の穴(バックサイドの穴の径の方が幾分大きく見えた。)を開けたアーキテクチャーの例を写真で見せてくれた。これをアーキテクチャ移植後、4週間~5週間後くらいに増殖因子を入れる(syringeでinjectする)ことにしたら、成績がよいという。つまり、PCLで作った構造体周辺での挿入手術後の炎症がなくなってから増殖因子を入れた方が、成績がよいということらしい。これを、"Delayed Stem Cell-Injection"と言う。注入の細胞量については、1億cell注入例と、2億cell注入例との成績の比較が説明された。

 

********

 

◆ ② 澤 芳樹先生: 心筋再生治療

 フットマッハー先生の次は、大阪大学大学院医学部教授 の澤芳樹(さわ よしき)教授による、「重症心不全に対する心筋再生治療」の話だった。今までは心臓移植でしか直せなかったものを、細胞シートの移植で次々に直しているという。

日本では、重症心不全の患者は、年間1000人いるという。

 一方で人工心臓という方法もあり、人工心臓について述べると、日本における人工心臓の先駆者はニプロであったが、Nipro-LVAD(エルバド)による治療で、4割の人がオペから三年後も生存していた。しかし、現在は、人工心臓のオペ三年後に、9割の人が生存しているという。こうした人工心臓の手術は、現在、年間100例に満たないオペが実施されている。そして、心臓移植は、年間20~30例、実施されているという。

 心臓の再生医療の歴史においては、「マジック・トライアル: MAGIC trial」 と呼ばれる筋芽細胞(きんがさいぼう: 筋線維の由来となる細胞)移植の臨床試験が97人の患者を使って大規模に行われたことがあった。(2007年論文収載)

 この「MAGIC」とは、或る言葉の頭(かしら)文字で呼んだ略称である。それは、Myoblast(筋芽<きんが>細胞) Autologous (自己移植)Grafting(接合移植) Ischemic(虚血性) Cardiomyopathy(心臓病) の略である。

 すなわち、

M:筋芽(きんが)細胞 ・ A:自己移植 ・ G:接合移植 ・ I:虚血性 ・ C:心臓病  

=”MAGIC”という語呂のよい通称である。

 これは、足の筋肉の筋芽細胞(きんがさいぼう)を心臓に注入するという臨床試験で、方法としては、細胞を浮遊液に入れて、その細胞を含む液体を心臓に注射で注入するというやり方であった。

 しかし、この「マジック・トライアル: MAGIC trial」においては、明らかな問題点が浮上した。

 細胞を浮遊液に入れるというプロセスだけで、ほとんどの細胞が痛んでしまうという事実が明らかになったのである。結果としては、足の筋芽細胞(きんがさいぼう)を心臓に注入された治験者は、不整脈を起こしてしまい、このMAGICトライアルは、失敗と見なされてしまったのであった。筋芽細胞が心臓の所々に注入されて、その所々で筋肉に成長しているCT画像と見られる写真があったが、赤く表示された筋肉はところどころではコロニーを成しているものの、都市と都市とがところどころに分離して成長している姿を上空からみるような感じで、その間が繋がっていない。これは細胞浮遊液を注射する方法の欠点である。こうした分離したコロニーで細胞が連携していない状態では、拍動がそれぞれ分離しておこりかねないのかもしれない。コロニー毎の連携しない拍動は、当然、不整脈として現れるはずである。筋芽細胞移植に関する世界最初のランダム化プラセボ対照臨床試験(”First Randomized Placebo-Controlled Study of Myoblast Transplantation”)と言われた、この「マジック・トライアル: MAGIC trial」の失敗は、「再生医療」は困難であるというマイナスの印象を、不幸なことに世界に大きく与えてしまった。

 しかし、こうした再生医療の歴史において、岡野光夫(おかの てるお)先生が見いだして1990年に特許を取った方法は、まったく異なったアプローチによる画期的な成功例として世界的に大きな注目を集めた。それは、高分子(polymer)がシャーレに塗布印刷してあり、その上で人間の体温である37度Cで細胞を培養し、培養後に温度を32度に下げるだけで、高分子が親水性から疎水性に変化してシート状になった細胞、すなわち「細胞シート」が基底膜(based membrane)からきれいにはがれる、というものであった。このセッションで司会を務めた岡野光夫先生がこの方法を発明されるより以前には、研究者たちは、シャーレの上で細胞を培養した後、シャーレから細胞シートを剥離するのに、タンパク分解酵素を使ってシートをはがすということをしていた。しかし、タンパク分解酵素を使うと、はがすことが出来ても、そもそも細胞自体が傷んでしまうという致命的な問題があった。それが、岡野先生による「温度応答性培養皿」の発明により、「再生医療」の分野に画期的な明るい光がもたらされたのである。

 このようにしてシャーレの上で培養された細胞は、connexin43(+):コネキシン43で、細胞同士がチームとしてつながっているという。つまり、細胞シートが2シート重ねてあっても、心臓の拍動(Heart beating)がシンクロナイズ(synchronize)するということである。この細胞シートを患者の心臓の上にオペで貼っていくと、或る患者は素晴らしい回復を見せた。

 このように画期的な手術ではあるが、ただし、過去の手術例を詳細にみていくと、やはりresponder(リスポンダー:効く人)と non-responder(ノンリスポンダー:効かない人)とがいるという。人工心臓が既にのっている人など、心機能が既にあまりにも悪すぎる人には効かないこともありうるという。

 阪大の澤先生は、岡野先生と2000年に知り合い、2007年から細胞シートによる治験を開始したという。今後はiPS細胞(induced pluripotent stem cell:人工多能性幹細胞)から心筋への分化誘導をして使うことも視野に入っている。

 

 骨細胞による骨工学と、心筋再生治療という、分野こそ違え、どちらも再生医療の話だったが、急速に進展する再生医療の現場を目(ま)の当たりにするようなワクワクする二人の先生のお話であった。

 

 

    Copyright © 2012  Masakazu Ishikawa

 

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