佐藤義清(さとうのりきよ)こと西行(さいぎょう)の和歌を英語にすると 2
前回、西行の和歌を英語でどう翻訳されているかを学んでいなかったことに、フランス人の友人から暗に気づかされたことについて述べた。
http://poet.air-nifty.com/blog/2012/04/post-26c3.html
西行についてのありとあらゆる膨大な文献を漁っては読んできた私も、英語版の"Saigyo"については研究していなかったことに気づかされたのである。
そこで早速、USAのAmazon.comで、"Saigyo"を検索し、いくつか見つかった文献の中から、とりあえず、
Poems of a Mountain Home (Translations from the Oriental Classics) [Hardcover] Saigyo (Author)
を注文した。
"Saigyo" translated by Burton Watson Masakazu Ishikawa
"Poem"を前面に出した書名が、第一印象で気に入ったからであった。
"Mountain Home"とは、言うまでもなく文字通り想像できようが、直訳で「山の家」、つまり、"Poems of a Mountain Home"とは、『山家集』(さんかしゅう)のことである。
2週間後、米国からこの本が私の手元に届いた。
開封して、なにげなく指で最初に開けたページを見ると、
1頁に一首という贅沢なスペース使い、すなわち白い無印字の紙面の中央だけに、5行の(言うまでもなく、⑤/⑦/⑤/⑦/⑦の五行である。)文字が印字されている様子が私の目に飛び込んできた。そして、読むと、なんと、それは、たまたまとは言え、"Let me die in spring" という文言であった。これは、直訳すれば、「春に死なん」である。ということは、西行の代表的な和歌である、「ねがはくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月の頃」 に違いない。すなわち、たまたま最初に指が勝手に開けた途中の頁が、西行の一番有名な歌のページに当たったことに、たわいないことと言えばその通りなのだが、ただそれだけで、私はえらく感動したのだった。
「ねがはくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月の頃」
の英訳は、以下の通りである。
Let me die in spring
under the blossoming trees.
let it be around
that full moon
of Kisaragi month *
アスタリスクが付いた、Kisaragi month *
の説明は、下の方に、以下のようにある。
*kisaragi is the Japanese name for the second month of lunar year.
Shakyamuni Buddha is said to have died on the fifteenth day of the second month.
この英訳を見ただけで、私は、この本を買ってよかったと、心から思った。この本は、おそらく、私の愛読書のひとつとなるような予感を感じている。
ちなみに、この本の作者、と言うよりも、(西行の)翻訳者と言うべきであろうが、本にも、"TRANSRATED BY "とあるのであるが、訳者は、BURTON WATSON である。
訳者についての履歴が本に無かったので、ネットで検索してみると、1925年生まれで、中国と日本についての文学と詩を翻訳している人だということがわかった。コロンビア大学で1979年にthe Gold Medal Award of the Translation Center at Columbia University を受賞したり、1981年には、the PEN Translation Prizeを受賞したりと、米国における翻訳の世界ではたいへんえらい人らしい。
Let me die in spring
under the blossoming trees.
let it be around
that full moon
of Kisaragi month *
という英訳の中で、
< let it be around >
以外の文は、ほぼ直訳に近い。
ただ、
< let it be around > だけは、
直訳ではなく、これこそが、「五七五七七」の、
いわば「五行詩」の和歌原文の定型を活かしながら
英語にしていくときの難しい作業が入った証(あかし)なのであろう。
「五行詩」という言葉を何気なく私は使ったが、そうだ、「五行詩」なのだ。これこそ、"Stanza"と呼ばれる、欧州の古き韻文の伝統のひとつである。
BURTON WATSONは、「五七五七七」という和歌の五行に分かれる韻文を、
五行詩"Stanza"という、欧州の古き伝統に照らして訳出しているのではなかろうか。
そのことを思うと、私の心に熱き思いが涌出するようであった。
つまり、ワーズワースのような英国の湖畔詩人たちの伝統にも通ずるように、
BURTON WATSONは西行を訳出しているのだと感じたからである。
ここにまさしく、異文化交流の面白さを感じる。
< let it be around > ・・・・
この語感と深い意味合いを私は結構楽しんで味わっている。
訳者:BURTON WATSON の偉大さが、
私は身にしみてよくわかるように思える。
西行は、英語圏でも、生き続けている。
Copyright © 2012 Masakazu Ishikawa
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