カイオムの子会社リブテックとスイスADCセラピューティックスとの提携、並びに抗体薬物複合体について
私は修士論文がバイオテクノロジー企業の経営に関する論文だったため、常々様々なバイオテクノロジー企業をウォッチしているが、標的療法であるADC(Antibody-Drug Conjugate:抗体薬物複合体)の動向で興味ある動きが昨今見られた。
遺伝子組換えによる迅速な抗体作製技術「アドリブ(ADLib)システム」を中核技術とする上場企業カイオムの子会社リブテックで、癌治療用抗体 LIV-1205 について、スイスの会社ADCセラピューティックスとの提携オプションライセンス契約締結がカイオム社によって2015年5月26日に発表されたのである。カイオム社の株価は翌日ストップ高を付けた。
今回の子会社リブテック社とスイスADCセラピューティックス社との提携で、「ADC」こと、Antibody-Drug Conjugatesが、いったいどの程度の市場規模を持ちつつあるのかを調べてみた。
「抗体薬物複合体(ADC)の世界市場2015:パイプライン分析、技術動向、競争状況」 というグローバル市場調査レポートが今年3月に発売されていることを知った。このグローバル市場調査レポートの価格は、個人が買えば、342ページ1部で43万円(USD3,500 )、企業ならば1部130万円の価格である。このようなレポートの価格としては通常の価格帯なのかもしれない。とりあえず無料の拾い読み「英文サマライズ」に目を通すと少なくとも以下のことが書いてある。(和文は拙訳。)
Antibody-Drug Conjugates (ADCs) are monoclonal antibodies (mAbs) attached to biologically active drugs by chemical linkers with labile bonds. The ongoing research on this therapy will replace the chemotherapeutics treatments in the near future thereby reducing its toxic side effects. Billions of dollars are spent on the chemotherapy treatments annually.
ADCこと、抗体薬物複合体は、化学的変動結合で活性を有する医薬品に結合するモノクローナル抗体である。この目下研究中のADCは、近い将来、毎年何千億円という規模で使用されている化合物医薬品に取って代わると見られる。
Different Biotechnology companies and Pharma Companies are collaborating in all area of ADCs like linker technology, antibody production and conjugation process. Seattle Genetics’s Brentuximab vedotin and Roche’s trastuzumab emtansine are the only ADCs approved which have together made USD 523 millions sales in 2013. There are total 264 ADCs in pipeline with 253 ADCS are developing only for Oncology indications.
さまざまなバイオテクノロジー企業や製薬会社がADCこと、抗体薬物複合体について共同して研究開発を行っており、それらは、リンカー・テクノロジー、抗体産生、複合体(conjugation)プロセスなどについての研究である。シアトルジェネティクス社のブレンツキシマブ・ベドチンや、ロシュ社のトラスツズマブ・エマタンシンは、数少ない承認されたADC(抗体薬物複合体)であるが、このふたつの医薬品で2013年に5億2300億ドル(米ドル)(1$120円として約630億円)を稼ぎ出した。264ものADC(抗体薬物複合体)が現在パイプラインとして開発中であり、そのうちの253が癌(ガン)の適応に関する研究開発である。
また、”JOURNAL OF ANTIBODY DRUG CONJUGATE”というADCの専門誌によれば、ADCは、そもそも、お馴染みのYの字型をしたモノクローナル抗体(Monoclonal Antibody)と、癌細胞(Cancer cell)を殺すための毒(cytotoxic agent or toxin)と、その毒を抗体にくっつけるためのリンカー(linker)とで構成される。ADC(抗体薬物複合体)は、そもそもターゲット・セラピー(標的療法)のひとつとして発展してきた経緯があり、癌のような特定の病変部のみに正確に作用してそこだけを叩くという、わかりやすくするために喩え方が卑近であることを懼れずに敢えて言えば、兵器にたとえればスマート爆弾のようなきわめて正確きわまりない作用機序が期待される。したがって、化合物医薬品と比べて副作用は小さく、作用効果はとても大きいという新薬が続々と誕生していくことが、今後の各社のADCの研究開発、それぞれのパイプラインに今後ますます期待されていくことであろう。
(本稿はバイオテクノロジー産業の現況と動向についての私論を述べたものであり、特定の株式や金融商品等の取得・勧誘を目的とするものでは一切ありません。)
Copyright © 2015 Masakazu Ishikawa
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